松本美佳先生からのメッセージ
始まりは自然療法を取り入れたホームケア
2000年に立ち上げた「チャイルドケアホームワーク講座(通信講座)」は、子どもの健やかな成長をサポートするために、自然療法を利用したホームケアを提案することが目的でした。その背景には、私が子育てをしている頃、住んでいる地域では子どもの医療費助成制度が充実していたため、すでに子どもの医療費負担はなく、そのためなのか周りを見ると、たいした症状じゃなくても病院にかかり、手軽に薬を飲ませているような状況がありました。医療負担のないことが、病院にかかることへの抵抗をなくしているようでした。さらに驚いたことに、病院から処方された薬を友達間で受け渡していることを知り、健康を考えるうえで、家庭と病院や薬との関わり方に問題が起こっているように感じました。
病院にかかることや薬を飲むことがすべて悪いと言っているわけではありませんが、あまりにも安易な利用の仕方で、家庭の中の「手当て」が失われていることに、大きな危機感を持ったのです。親として子どもを守る力も低下することが想定できました。
そこで本来家庭の中で行われていた「手当て」をもう一度周知していくことが必要だと思い、『チャイルドケア』がスタートしたのです。
私が伝えていることは昔から行われていたものばかりです。新しく考案したわけではありません。しかし、そうした昔から伝わる手当ては、実際に私が体験してきたリアルな言葉と時代に合わせたアレンジに共感いただき、自然療法は子育てに有効であることが広がりました。
ホームケアの「ホーム」を知るための「家庭教育」
チャイルドケアがスタートして数年経ったころ、学習されている方々の質問や要望に違和感を持つようになりました。例えば、「風邪には、どのハーブティーがいいですか?」「アトピーですが、どの精油で治りますか?」「頭痛がひどいのですが、どのツボを押せばいいですか?」「子どものタッチケアは、1日何回やればよくなりますか?」と具体的な症状を抑え、治すことだけを求める声が増えたのです。これでは、薬がアロマやハーブに変わっただけで、症状が出たらそこだけにアプローチするという対症的な思考は何も変わりません。
そこでチャイルドケアは舵の取り方を変えることにしました。家庭の中で家族ができるホームケアを行うために、最も必要なことは何かと考えたときに、改めてホームケアの「ホーム」に着目したのです。「ホーム」の意味するものは「家庭」であり、その在り方を知ることが「家庭教育」でした。そこから、「家庭教育」を日本で最初に学ぶことができる大学に入学し、知識を深めました(現在はその学科・課程はありません)。
その学びから、改めて家庭や家族の在り方が、どれだけ人を人間らしく健全に育むことに関係し、ケアに最も重要なことだと気づきました。当たり前であり、暗黙になされていると思われていた「家庭教育」は、気づかぬうちに希薄し、崩壊に進んでいたのです。
さらにその考えは自然療法に対する意識にも影響し、ノウハウやツールよりも自然療法に対する根本的な概念や、自然と私たちの関係性を知ることなどで、私たちの母体である「地球」が「ホーム(家庭)」であり、その地球のケアも「ホームケア」であることにつながったのです。チャイルドケアを始めたことで、私自身がさらに根本的な「ホーム(家庭と地球)」の在り方を見つけることができました。
答えを出すことよりも「調和」を学び続ける学習提案
家庭教育は、方法やツールなどのノウハウではなく、子どもの生きる力を育むことにあります。自然療法と同じで十人十色の形があります。画一的なものを提示するものではありません。目的は、「健康のため」「しあわせになるため」「笑顔でいるため」など漠然としていて良いと思います。知識を持ち、経験を重ねて、気づきを得ることで、それぞれが具体的な目的や目標を見つけられます。そして何よりも心地の良い「調和」を知ることができるでしょう。
環境、文化、個性などで様々な答えが生まれていきます。誰かと同じじゃなくてもいいのです。家庭の状況に合わせて学び続けることで、日常を微調整し、元気で皆が気持ちの良い日々を送ることが「調和」です。そして、これこそがチャイルドケアの大正解なのです。
令和の時代は「家庭共育」でスタート
私の経験からの気づきと学びで築いてきた「チャイルドケア」ですが、平成から令和という時代になり、新たな時代への流れに沿った変化の必要性を感じています。平成の時代は、IT化したことで情報量が膨大に増え、個人発信が自由になり、情報を利用するというよりも混乱を招き始めました。令和の時代は、必要な情報を見極め、自分で考え経験を積まなければなりません。知識の情報処理はAIが代わりに行ってくれますが、人間は人間らしい感性と心の思考力を深めていくことが必要です。未知数のAIと心を持った人間同士の《共有・共感・共生・共存》する力が必要になります。
それには、ホームケアのホームである「家庭」の中でこれらの『共』を取り組み考え、力として育むことが大切です。だからチャイルドケアでは「家庭教育」ではなく、「家庭共育」として、今後はより様々な分野とつながり、学びを得ていきたいと思います。共にチャイルドケアを作っていきましょう。
<松本美佳>
チャイルドケア講師 プロフィール
本部講師 松本美佳
チャイルドケア研究所代表/家庭教育学会常任理事
家庭教育支援協会理事/八洲学園大学公開講座講師
アロマセラピー、ハーブ療法、フラワーエッセンスなど各種自然療法を学び、’97より夫の治療院でセラピストとして活動。さらに、充実したケアを伝えるために講師活動を始める。同時に、家庭教育を専門的に学び、親子・家族・家庭を幅広い観点で考え、家庭の中で自然療法と家庭教育を取り入れた「チャイルドケア」を体系づけ、現在、さまざまな形で普及活動を行っている。
監修 松本安彦
自然療法治療室 松本鍼灸接骨院院長(東京・大田区)
柔道整復師/鍼灸師/あん摩マッサージ指圧師/介護支援専門員
鍼灸院、接骨院、整形外科勤務の後、’97治療院を開業。東洋医学、各種エネルギー療法を取り入れた治療を積極的に行う一方で、子どものケアとして、マッサージやお灸、小児鍼を取り入れ、子どものさまざまな不調をサポートしている。0歳から100歳以上の幅広い世代の患者さんを持ち、予防から治療、リハビリまで積極的に行っている。